大江戸温泉物語といえば、全国で温泉旅館やホテルを展開する日本最大級のカジュアル温泉宿ブランドとして多くの人に親しまれています。しかし、この巨大企業グループを一代で築き上げた創業者について詳しく知る人は意外と少ないのではないでしょうか。
創業者である橋本浩氏は、プリント基板メーカー「キョウデン」の創業者でもあり、長崎屋や九九プラス(SHOP99)などの流通業も手がけた異色の実業家です。温泉事業への参入は2001年で、東京都の世界都市博覧会中止により空いた有明地区の土地活用がきっかけでした。現在では全国68施設を展開し、年間約520万人が利用する一大温泉チェーンに成長しています。
この記事のポイント |
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✅ 大江戸温泉物語の創業者・橋本浩氏の詳しいプロフィールと経歴 |
✅ 創業から現在までの企業変遷と買収・統合の経緯 |
✅ 現在の経営体制とGENSEN HOLDINGSとの関係性 |
✅ 湯快リゾートとのブランド統合による今後の展開予定 |
大江戸温泉物語の創業者・橋本浩氏の人物像と事業展開
- 橋本浩氏の経歴とキョウデン創業の背景
- 大江戸温泉物語設立の経緯とお台場進出の理由
- 長崎屋や九九プラスなど流通業への参入と再生手腕
- 温泉旅館再生ビジネスモデルの確立
- ベインキャピタルへの売却決断と背景
- 橋本浩氏の現在の活動状況
橋本浩氏は1952年長野県生まれのプリント基板業界のパイオニア
橋本浩氏の基本プロフィール
橋本浩氏は1952年に長野県で生まれ、高校卒業後に父を亡くして以来、一家の生計を立てるため様々な事業に乗り出した苦労人です。最も特筆すべきは、試作用プリント基板を小ロットで製造し、24時間で提供するという革新的なビジネスモデルでキョウデンを設立したことでしょう。
🏭 キョウデン創業時の特徴
項目 | 内容 |
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設立年 | 創業年代詳細は不明だが、橋本氏が若い頃 |
事業内容 | 試作用プリント基板の小ロット製造 |
革新性 | 24時間での短納期対応 |
成長過程 | 試作から量産、実装まで一貫体制を構築 |
プリント配線基板業界において、橋本氏は試作品を小ロットで迅速に提供するという、当時としては画期的なサービスを確立しました。この「スピード対応」という考え方は、後の大江戸温泉物語の運営にも活かされているといえるでしょう。
キョウデンは順調に成長し、やがて昭和鉱業、長崎屋などを次々に傘下におさめる企業グループへと発展します。1999年には実弟の橋本修氏に社長の座を譲り、自らは会長として大江戸温泉物語などを含むグループ経営の推進に力を注ぐようになりました。
橋本氏の経営哲学は「困っている企業を助ける」という再生・再建への強い信念に基づいています。この思想が、後の長崎屋や九九プラスの再建、さらには全国の経営難に陥った温泉旅館の再生事業へとつながっていくのです。
大江戸温泉物語は2001年の東京都コンペ勝利から始まった物語
世界都市博覧会中止が生んだビジネスチャンス
大江戸温泉物語の設立は、実は東京都の政策変更が大きなきっかけでした。当初、東京都江東区の有明地区には世界都市博覧会の開催が予定されていましたが、鈴木俊一都知事の推進した構想を青島幸男都知事が中止としたため、広大な土地の有効活用が課題となっていたのです。
東京都港湾局が実施したコンペには10社を超える提案が寄せられましたが、橋本氏らが提案した「中高年も楽しめる江戸をテーマにした日帰り温泉施設」という構想が採用されました。これが2001年11月の大江戸温泉物語設立へとつながります。
📅 大江戸温泉物語設立から開業までの流れ
時期 | 出来事 |
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2001年11月 | 大江戸温泉物語設立 |
2003年3月1日 | 東京お台場 大江戸温泉物語開業 |
開業時の特徴 | 江戸開府400年にちなんだ温泉テーマパーク |
コンセプト | 江戸の町にタイムスリップしたような雰囲気 |
施設のコンセプトは非常にユニークで、江戸時代の町並みを再現した温泉テーマパークとして設計されました。これは橋本氏の「エンターテインメント性を重視した温泉施設」という発想から生まれたもので、従来の温泉施設とは一線を画す革新的なアプローチでした。
開業時期も絶妙なタイミングで、江戸開府400年という記念すべき年に合わせて2003年にオープンしています。この歴史的な節目を意識したマーケティング戦略も、橋本氏の商才を示すエピソードの一つといえるでしょう。
お台場の大江戸温泉物語は、国内外の観光客を中心に根強い支持を集め、大江戸温泉物語ブランドの礎を築きました。しかし、この施設は東京都との事業用定期借地権設定契約が期限付きであったため、2021年9月5日に閉館することとなります。
長崎屋と九九プラスの再建で見せた橋本浩氏の企業再生手腕
経営破綻企業を次々と復活させた手法
橋本浩氏の企業家としての真価は、長崎屋や九九プラス(SHOP99)などの経営破綻企業を再建した実績にあります。特に長崎屋の再生計画では、当初の予定を12年も繰り上げて会社更生手続きを終結させるという驚異的な成果を上げました。
長崎屋は全国に展開するスーパーチェーンでしたが、バブル崩壊後の長引く不景気により経営が悪化していました。橋本氏が手がけた再建では、不採算店舗の整理や効率的な商品調達システムの構築、従業員のモチベーション向上策などを総合的に実施したとされています。
🏪 橋本氏が手がけた主要な企業再生案件
企業名 | 業種 | 再生の特徴 | 最終的な結末 |
---|---|---|---|
長崎屋 | スーパーチェーン | 12年繰り上げでの会社更生手続き終結 | 2007年ドン・キホーテに売却 |
九九プラス(SHOP99) | 生鮮コンビニ | 経営不振からの立て直し | 2008年ローソン傘下入り |
九九プラスについても、生鮮コンビニという業態の難しさを克服し、安定した経営基盤を築き上げました。これらの成功体験が、後の温泉旅館再生ビジネスへの参入につながったと考えられます。
橋本氏の再生手法の特徴は、単なるリストラクチャリングではなく、事業の本質的な価値を見極めて再構築する点にあります。従業員を大切にしながらも効率化を図り、顧客満足度の向上と収益性の改善を両立させる手腕は、多くの経営者から注目されました。
これらの企業再生で得た経験とノウハウが、温泉旅館という全く異なる業界での成功につながったのは、橋本氏の経営センスの高さを物語っています。
温泉旅館再生ビジネスは2007年から本格化した新事業領域
全国展開の契機となった独自のビジネスモデル
橋本氏が温泉旅館再生ビジネスに本格的に乗り出したのは2007年のことです。この背景には、日本全国で約1万4000軒ある温泉旅館の大半が家族経営で1施設のみを運営し、平日の利用客数が少なく土日でも収益を挽回しきれないという構造的な問題がありました。
大江戸温泉物語が確立した「大江戸モデル」は、従来の温泉旅館とは大きく異なる運営方針を特徴としています。最も象徴的なのが、すべての食事をバイキング形式で提供することです。これは単なるコスト削減ではなく、顧客満足度の向上を目的とした戦略的な選択でした。
🍽️ 大江戸モデルの主要な特徴
要素 | 従来の旅館 | 大江戸モデル |
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食事形式 | コース料理 | バイキング形式 |
客室稼働率 | 平均37% | 平均84% |
ターゲット層 | 幅広い年代 | 50代以上女性団体客中心 |
エンターテインメント | 限定的 | 歌謡ショーや各種イベント |
バイキング形式の採用により、年配の方は少量ずつ、若い方はたくさん食べるといった個々のニーズに対応できるようになりました。また、宿泊客を飽きさせないエンターテインメントとして、専属歌手による歌謡ショーや落語、演劇などのイベントを定期的に開催しています。
片山津温泉の旅館「ながやま」の再生では、周辺の経営破綻した旅館も含めて買収し、建物を解体・更地化した上で露天風呂やフリースペースを増やし、温泉地全体の景観を改善しました。これは単一施設の再生を超えた、地域全体の活性化を図る取り組みとして注目されました。
この温泉旅館再生ビジネスモデルの成功により、大江戸温泉物語は全国に事業を拡大し、現在では68施設を運営する日本最大級の温泉チェーンへと成長しています。
ベインキャピタルへの全株式売却は2015年約500億円の大型案件
成長資金確保と組織強化を目的とした戦略的判断
2015年2月13日、米投資ファンドのベインキャピタルが、橋本浩氏率いるキョウデンエリアネット他より大江戸温泉物語株式会社の親会社である大江戸温泉ホールディングス株式会社の全株式を取得すると発表しました。買収総額は約500億円と報じられており、温泉業界では史上最大級のM&A案件となりました。
この売却決断について、橋本氏は成長を加速させるための戦略的判断だったと説明しています。ベインキャピタルとの提携により、運営の効率化と規模拡大を同時に実現できると考えたのです。
💰 ベインキャピタル買収の詳細
項目 | 内容 |
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買収発表日 | 2015年2月13日 |
買収金額 | 約500億円(推定) |
買収対象 | 大江戸温泉ホールディングス全株式 |
買収目的 | 事業拡大とインバウンド需要取り込み |
ベインキャピタルは世界で総額750億ドルを超える運用資産を持つ大手プライベート・エクイティファンドです。日本では2006年に東京拠点を開設し、ジュピターショップチャンネル、ドミノピザ・ジャパン、すかいらーくなど12社に投資実績がありました。
買収後のベインキャピタルによる経営改革では、食材の一括購入による年間10億円程度のコスト削減効果や、オンラインアンケートを活用した顧客満足度向上策、各施設の売上管理手法の精緻化などが実施されました。これらの施策により、グループ全体の宿泊客数は延べ約520万人、2016年2月期の売上高は382億円まで成長しています。
また、2016年には国内初となる温泉旅館特化型REITの「大江戸温泉リート投資法人」を設立し、東京証券取引所に上場させました。これにより、優良施設をREITに売却して得た資金を新規物件の取得や既存施設の改装に充てるという成長サイクルを確立しています。
橋本浩氏の現在の活動はキョウデン最高顧問とシンガーソングライター
異色の経営者として多彩な才能を発揮
橋本浩氏は現在、キョウデンの最高顧問を務める傍ら、シンガーソングライターとして定期的にコンサートも開く異色の企業家として活動しています。この音楽活動は単なる趣味の域を超えており、大江戸温泉物語の各施設で活躍する専属歌手たちの師匠としても知られています。
特に注目されるのは、ホテルニュー塩原の専属歌手である宇都ノ宮晃氏の歌の師匠でもあることです。宇都ノ宮氏はNHK「紅白歌合戦」出場を目標とする実力派歌手で、橋本氏から直接指導を受けて歌唱力を磨いています。
🎤 橋本氏の多面的な活動
分野 | 活動内容 |
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企業経営 | キョウデン最高顧問として経営指導 |
音楽活動 | シンガーソングライターとしてコンサート開催 |
人材育成 | 大江戸温泉物語専属歌手の指導 |
社会貢献 | 地方温泉地の活性化支援 |
橋本氏の音楽活動は、大江戸温泉物語の「エンターテインメント重視」という方針とも密接に関連しています。各施設で開催される歌謡ショーのクオリティ向上に直接的に貢献しており、宿泊客の満足度向上にもつながっているといえるでしょう。
大江戸温泉物語の経営からは一線を退いていますが、グループ全体の方向性や企業文化の形成には今でも大きな影響を与えていると推察されます。特に「困っている施設を助ける」という再生事業への取り組み姿勢は、橋本氏の経営哲学が色濃く反映されたものです。
近年では、全国の温泉地域との交流を通じて、地方創生や観光振興にも積極的に関わっているとされており、企業経営者の枠を超えた社会的な活動も展開しています。
大江戸温泉物語の創業者が築いた企業帝国の現在と未来展望
- 現在の経営体制とGENSEN HOLDINGSの役割
- ローンスターによる買収と新たな成長戦略
- 湯快リゾートとのブランド統合による規模拡大
- 現在の施設展開状況と地域別戦略
- 競合他社との差別化戦略と市場ポジション
- インバウンド需要回復と今後の事業展開
- まとめ:大江戸温泉物語の創業者・橋本浩氏の遺産と今後の展望
現在の経営はGENSEN HOLDINGSが統括する新体制で運営
ローンスター傘下での経営統合と組織再編
現在の大江戸温泉物語は、2023年8月31日に設立されたGENSEN HOLDINGSを親会社とする新しい経営体制で運営されています。GENSEN HOLDINGSは、大江戸温泉物語と湯快リゾートの経営統合のために作られた持株会社で、両社の本部長が新会社に転任する形で組織が構築されました。
代表取締役社長には、元湯快リゾート社長の西谷浩司氏が就任しており、資本金100万円、従業員数1,470名(2024年12月現在)の規模となっています。2025年2月期の総資産は805億3,816万8,000円に達しており、巨大企業グループへと成長しています。
🏢 GENSEN HOLDINGSの組織構造
項目 | 詳細 |
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設立年月日 | 2023年8月31日 |
代表者 | 西谷浩司(代表取締役社長) |
資本金 | 100万円 |
従業員数 | 1,470名(2024年12月現在) |
総資産 | 805億3,816万8,000円(2025年2月期) |
GENSEN HOLDINGSの主要事業は、株式又は持分の取得・保有・管理及び売買、有価証券に関する投資、ホテル業に係る経営管理となっています。これは純粋持株会社として、傘下の事業会社を統括する役割を担っていることを示しています。
組織再編の背景には、大江戸温泉物語と湯快リゾートという東西を代表するカジュアル温泉宿チェーンが、共通の課題である旅行市場の構造変化に対応する必要があったことが挙げられます。現在の旅行市場では市場規模は回復しているものの旅行者数は減少しており、物価高による節約志向や旅行習慣の意欲低下が要因となっています。
この状況に対応するため、両社の経営資源を統合し、より効率的で魅力的なサービス提供体制を構築することが戦略的に重要だったのです。
ローンスターによる2022年の買収で新たな成長ステージへ
コロナ禍を経てさらなる事業拡大を目指す体制整備
2022年1月15日、ベインキャピタルは大江戸温泉物語の株式並びに経営権を、同じアメリカの投資ファンドであるローンスターグループに売却すると発表しました。この売却は新型コロナウイルス感染拡大による観光業界への深刻な影響が背景にありました。
ローンスターは米国に本部を置く大手ファンドで、日本では20年以上にわたって活動実績があります。主な投資実績としては、全国のゴルフ場を買い集めてグループ化したPGMホールディングス(現在は遊技機大手の平和傘下のパシフィックゴルフマネージメント)や、2020年の不動産会社ユニゾホールディングスの株式非公開化支援などがあります。
💼 ローンスターによる買収の影響
項目 | ベインキャピタル時代 | ローンスター時代 |
---|---|---|
買収時期 | 2015年 | 2022年 |
事業方針 | 効率化と規模拡大 | ブランド統合と市場拡大 |
主要施策 | REIT上場、運営効率化 | 湯快リゾートとの統合 |
成長戦略 | 年間5施設程度の買収 | 3年で10店舗の新規出店 |
ローンスター傘下での最大の変化は、湯快リゾートとの経営統合です。これにより、大江戸温泉物語は関東・東日本中心から、湯快リゾートが強い関西・西日本エリアまでカバーする全国規模のチェーンとなりました。
新型コロナウイルスの影響で、主力施設だった「東京お台場大江戸温泉物語」が2021年9月5日に閉館するなど、事業環境は大きく変化しました。しかし、ローンスターの豊富な資金力と経営ノウハウにより、むしろより強固な事業基盤を構築する機会として活用されています。
今後の成長戦略では、新規出店ペースを従来の年間5施設程度から、3年で10店舗程度まで加速させる計画が発表されており、さらなる事業拡大が期待されています。
湯快リゾートとの統合で日本最大級のカジュアル温泉宿ブランドが誕生
2024年11月1日のブランド統合で全66施設体制に
2024年11月1日、大江戸温泉物語と湯快リゾートのブランド統合が正式に実施されました。これにより、全国66施設を展開する「日本最大級のカジュアル温泉宿ブランド」が誕生しています。統合後の施設は「大江戸温泉物語」「大江戸温泉物語Premium」「大江戸温泉物語わんわんリゾート」「TAOYA」のいずれかのシリーズとして運営されています。
統合の背景には、両ブランドの共通の想いである「温泉旅行をもっと気軽に何度も楽しめるものにしたい」という理念があります。現在の旅行市場では、物価高による節約志向や旅行習慣の意欲低下により、友人同士で旅行を誘い合う機会が減少している状況に対応する必要がありました。
🏨 ブランド統合後の施設構成
ブランド名 | 特徴 | 対象施設数 |
---|---|---|
大江戸温泉物語 | スタンダードタイプ | 多数 |
大江戸温泉物語Premium | 上位グレード、プレミアムラウンジ設置 | 複数 |
大江戸温泉物語わんわんリゾート | ペット同伴専用 | 複数 |
TAOYA | 最上位ブランド、オールインクルーシブ | 複数 |
統合により実現される主要なシナジー効果としては、食事内容の強化、施設リニューアルの加速、館内での過ごし方対応の充実、新規出店の加速などが挙げられています。特に、仕入れの統一による効率化とコストカットにより、人気のステーキなどを全館で展開し、ご当地メニューもさらに強化される予定です。
また、入浴可能時間の延長やチェックアウト時間の11時統一など、お客様により満足していただける時間設定への見直しも実施されています。これらの改善により、ゆったりと温泉宿体験を満喫できる環境が整備されています。
統合記念として実施された「お湯合わせの儀」では、最東端の施設「大江戸温泉物語Premium ホテル壮観」と最西端の施設「湯快リゾートプレミアム ホテル蘭風」の温泉を使用して、両ブランドの調和と一体感を象徴的に表現しました。
現在68施設を全国展開する巨大温泉チェーンの地域別戦略
東北から九州まで幅広いエリアカバーを実現
2025年2月時点で、大江戸温泉物語グループは全国68施設を展開しており、東北から九州まで幅広いエリアをカバーしています。地域別の展開状況を見ると、関東・甲信越エリアが最も多く、次いで北陸、東海、近畿エリアでの展開が充実しています。
各地域での戦略は、その土地の特性と顧客ニーズに合わせて細かく調整されています。例えば、関東エリアでは都市部からのアクセスの良さを活かした週末需要の取り込みに重点を置き、地方エリアでは平日のシニア層需要の開拓に注力しています。
🗾 地域別施設展開状況(2025年2月時点)
地域 | 主要施設例 | 特徴・戦略 |
---|---|---|
東北 | TAOYA秋保、Premium仙台作並 | 仙台都市圏からのアクセス重視 |
関東 | TAOYA那須塩原、Premium伊香保 | 首都圏からの利便性を活かした展開 |
甲信越 | TAOYA木曽路、Premium汐美荘 | 自然豊かな立地での差別化 |
東海 | TAOYA志摩、TAOYA下呂 | 中京圏・関西圏双方からの集客 |
北陸 | TAOYA和倉、Premium山下家 | 金沢・富山都市圏からの需要取り込み |
近畿 | TAOYA白浜千畳、Premium白浜彩朝楽 | 関西圏を中心とした幅広い集客 |
中国・四国 | Premium斉木別館、ホテルレオマの森 | 瀬戸内海エリアでの展開 |
九州 | Premium西海橋、天草ホテル亀屋 | 九州全域からの集客を目指す |
最上位ブランドである「TAOYA」は、「ゆったりと、たおやかに」というブランドコンセプトのもと、オールインクルーシブを特徴として展開されています。建築家ロバート・ヴェンチューリによる設計のTAOYA日光霧降など、従来の温泉旅館とは異なる高級感を演出する施設も含まれています。
地域戦略の基本方針は、「人口100万人以上の大都市から、車で2~3時間以内で行ける場所」への出店です。この立地基準により、主要都市圏からの安定した集客を確保しつつ、地方の温泉地の活性化にも貢献しています。
近年では、北海道や沖縄など、これまで進出していなかった地域への展開も検討されており、さらなる全国展開の拡大が期待されています。
競合他社との差別化はサービス品質と価格のバランスで実現
伊東園ホテルズや湯快リゾートとは異なるポジショニング戦略
温泉旅館再生業界には、大江戸温泉物語の他にも伊東園ホテルズ、湯快リゾート(統合前)、星野リゾートなどの主要プレイヤーが存在しています。これらの競合他社との差別化戦略において、大江戸温泉物語は独自のポジショニングを確立しています。
伊東園ホテルズは取得した施設を大きく改装せず、代わりに非常に手頃な価格でサービスを提供する戦略を取っています。一方、星野リゾートは高級路線で差別化を図っています。大江戸温泉物語は、消費者の手に届きやすい価格ながら、サービスの質もある程度追求するという中間的なポジションを狙っています。
🎯 競合他社との比較分析
事業者 | 価格帯 | サービス特徴 | 改装方針 | ターゲット層 |
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大江戸温泉物語 | 中価格帯 | バイキング+エンターテインメント | 積極的改装 | 50代以上中心の幅広い層 |
伊東園ホテルズ | 低価格帯 | 最低限のサービス | 最小限の改装 | 価格重視層 |
湯快リゾート | 中価格帯 | バイキング中心 | 適度な改装 | ファミリー・団体客 |
星野リゾート | 高価格帯 | 高級サービス | 大規模改装 | 富裕層・カップル |
大江戸温泉物語の差別化要因として最も重要なのは、エンターテインメント要素の充実です。専属歌手による歌謡ショーや各種イベントの開催により、宿泊そのものが楽しい体験となるよう工夫されています。これは他の競合チェーンではあまり見られない特徴です。
また、「いいふろ会員」という会員サービスによるリピーター獲得策も特徴的です。宿泊客の利用履歴や購買行動を分析し、適切なタイミングでダイレクトメールを送るなど、CRM(顧客関係管理)を活用した営業戦略を展開しています。
食事面でも単なるバイキングではなく、施設ごとに看板メニューを用意し、季節に応じた特別企画を実施するなど、満足度の高いサービス提供を心がけています。この「手頃な価格で上質な体験」というバランスが、競合他社との差別化につながっています。
インバウンド需要回復により国際的な展開も視野に入る可能性
アフターコロナの観光業界動向と成長機会
新型コロナウイルス感染拡大前、大江戸温泉物語の主力施設だった「東京お台場大江戸温泉物語」は、インバウンドの人気スポットとして多くの外国人観光客に利用されていました。江戸をテーマにした温泉テーマパークというコンセプトが、日本文化を体験したい外国人観光客に強く訴求していたのです。
現在、日本のインバウンド需要は段階的に回復しており、政府も観光立国政策を推進しています。この流れの中で、大江戸温泉物語グループも国際的な顧客層の取り込みに改めて注力する可能性があります。
🌏 インバウンド市場での成長機会
要素 | 現状 | 今後の可能性 |
---|---|---|
外国人対応 | 一部施設で実施 | 全施設での多言語対応強化 |
文化体験 | 江戸テーマの演出 | より多様な日本文化要素の導入 |
アクセス | 主要都市近郊立地 | 国際空港からの交通連携強化 |
予約システム | 国内向け中心 | 海外OTA(オンライン旅行代理店)との連携 |
特に、TAOYA ブランドでは従来の温泉旅館とは異なる高級感を演出する方向を打ち出しており、外国人観光客の高まる体験型観光ニーズにも対応できる可能性があります。オールインクルーシブという料金体系も、外国人にとってわかりやすく安心できるシステムといえるでしょう。
また、全国68施設という規模を活かして、外国人観光客向けの「温泉巡りツアー」や「地域文化体験パッケージ」なども企画できる可能性があります。これは個別の旅館では実現困難な、チェーン展開ならではの強みを活かした戦略といえます。
海外展開についても、過去に中国・上海で類似施設が無許可で運営された事例がありましたが、これは逆に海外での「大江戸温泉物語」ブランドの認知度の高さを示すものかもしれません。将来的には、正式な海外進出も検討される可能性があります。
まとめ:大江戸温泉物語の創業者・橋本浩氏が残した温泉業界への遺産
最後に記事のポイントをまとめます。
- 大江戸温泉物語の創業者は橋本浩氏で、1952年長野県生まれのプリント基板業界のパイオニアである
- キョウデン創業により試作用プリント基板の24時間納期という革新的ビジネスモデルを確立した
- 長崎屋や九九プラスの再建で企業再生のプロフェッショナルとしての手腕を発揮した
- 2001年東京都のコンペ勝利により大江戸温泉物語を設立し温泉業界に参入した
- 2007年から温泉旅館再生ビジネスを本格化し独自の「大江戸モデル」を確立した
- バイキング形式とエンターテインメント重視により従来の温泉旅館とは異なる価値を提供した
- 2015年ベインキャピタルに約500億円で全株式を売却し成長資金を確保した
- 2022年ローンスターによる買収により新たな成長ステージに入った
- 2024年湯快リゾートとの統合により全国68施設の巨大チェーンとなった
- 現在はGENSEN HOLDINGSを親会社とする新体制で運営されている
- 橋本氏は現在キョウデン最高顧問兼シンガーソングライターとして活動している
- 競合他社との差別化戦略により中価格帯での独自ポジションを確立している
- インバウンド需要回復により国際的な事業展開の可能性も見えている
- 地方温泉地の活性化に貢献する社会的意義の高いビジネスモデルを構築した
- 創業者の企業再生哲学が現在でも企業文化として受け継がれている
調査にあたり一部参考にさせて頂いたサイト
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%B1%9F%E6%88%B8%E6%B8%A9%E6%B3%89%E7%89%A9%E8%AA%9E
- https://www.ooedoonsen.jp/corporate/ooedoonsen/about/
- https://business.nikkei.com/atcl/report/15/278209/020600095/
- https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000133.000010465.html
- https://www.jmca.jp/prod/teacher/1270
- https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB14DRF0U2A110C2000000/
- https://www.hoteresonline.com/articles/1658
- https://www.marr.jp/genre/study/marr_report/entry/6597
- https://www.zaikainiigata.com/?p=9481
- http://web2.nazca.co.jp/zz1564/page039.html