シンガポールの象徴的な建築物として知られるマリーナベイサンズ。その独特な形状と圧倒的な存在感は、世界中の人々を魅了しています。しかし、この巨大な建造物の裏側には、興味深い建設の歴史が隠されています。
マリーナベイサンズの建設には、多くの企業が関わりました。日本の清水建設やフランスのVINCIなど、世界的に有名な建設会社が入札に参加しましたが、最終的に韓国の双竜建設が受注しました。その背景には、安全性への懸念や工期の短縮など、様々な要因が絡んでいたのです。
この記事のポイント!
- マリーナベイサンズの建設を担当した企業とその選定過程
- 建築の特徴と安全性に関する議論
- サンズスカイパークの建設に関わった日本企業の役割
- マリーナベイサンズが現在直面している課題と将来の展望
マリーナベイサンズ建設会社の選定と施工の経緯
- 清水建設など大手建設会社が入札を辞退
- 韓国の双竜建設が受注した理由
- 工期短縮による完成と報奨金
- サンズスカイパークの建設はJFEエンジニアリングが担当
- 建築の特徴と風水を考慮した設計
- 世界最大級のカジノ施設を含む総合リゾート
清水建設など大手建設会社が入札を辞退
マリーナベイサンズの建設プロジェクトは、当初から多くの注目を集めていました。世界的に有名な建設会社が次々と名乗りを上げる中、驚くべき展開が起こりました。
日本の清水建設やフランスのVINCIなど、世界トップクラスの建設会社が入札を辞退したのです。これらの企業が辞退した理由は、建物の設計図を見た際に「安全性を保証できない」と判断したためでした。
マリーナベイサンズの設計は、イスラエル系カナダ人建築家のモシェ・サフディによるものです。その独特な形状、特に最大52度もの傾斜を持つ建物は、多くの建設会社にとって前例のない挑戦でした。
このような状況下で、世界的な建設会社が次々と辞退していったことは、マリーナベイサンズの建設がいかに困難なプロジェクトであったかを物語っています。
韓国の双竜建設が受注した理由
世界的な大手建設会社が辞退する中、最終的にマリーナベイサンズの建設を請け負ったのは、韓国の双竜建設でした。双竜建設が受注できた理由には、いくつかの要因が考えられます。
まず、双竜建設は「独創的なアイデアで工事を終わらせる」と主張し、他社が難色を示した設計に対しても前向きな姿勢を見せました。この積極的なアプローチが、発注者の目に留まった可能性があります。
また、競合他社が少なくなったことも、双竜建設にとっては有利に働いたと考えられます。他の大手建設会社が辞退したことで、双竜建設の提案が際立つ結果となったのかもしれません。
さらに、工期の短縮を約束したことも、受注の決め手になった可能性があります。後述しますが、双竜建設は実際に予定よりも大幅に早く工事を完了させています。
最後に、コスト面での競争力も無視できない要因だったでしょう。具体的な金額は公表されていませんが、他社と比べて競争力のある価格を提示した可能性があります。
工期短縮による完成と報奨金
双竜建設がマリーナベイサンズの建設を受注した後、驚くべきスピードで工事が進められました。当初の予定では4年かかるとされていた工事を、わずか2年3ヶ月で完了させたのです。
この驚異的な工期短縮により、双竜建設は約7億円のインセンティブを受け取ったとされています。これは、早期完成によるボーナスとして支払われたものと考えられます。
しかし、この急速な工事の進め方には懸念の声も上がっています。通常の4年という工期を半分以下に短縮したことで、品質や安全性に影響が出ていないかという疑問が生じています。
また、興味深いことに、双竜建設はマリーナベイサンズ完成から5年後に倒産しています。7億円ものインセンティブを受け取ったにもかかわらず、なぜ資金繰りが悪化したのかについては、詳細な情報が見つかりませんでした。
サンズスカイパークの建設はJFEエンジニアリングが担当
マリーナベイサンズの最も特徴的な部分であるサンズスカイパーク(船の形をした屋上部分)の建設は、日本のJFEエンジニアリングとシンガポールのヨンナム社の共同企業体が担当しました。
サンズスカイパークは、長さ343m、幅38mという巨大な構造物です。その面積はサッカー場の2倍にも及び、重量は6万トンにも達します。このような巨大な構造物を、地上200mの高さに設置するのは、非常に困難な作業でした。
JFEエンジニアリングとヨンナム社は、合計14回にわたって部品を吊り上げる作業を行いました。この作業には高度な技術と綿密な計画が必要だったと考えられます。
また、サンズスカイパークの重量を支えるため、トランスファートラスという特殊な工法が用いられました。この工法により、スカイパークの重さの60%を西側の建物に、残り40%を傾いた東側の建物に分散させることが可能になりました。
建築の特徴と風水を考慮した設計
マリーナベイサンズの設計には、いくつかの興味深い特徴があります。まず、全体的な形状が海から入ってくる船をイメージしているという点です。これは、ホテルを門に見立て、シンガポールの関門という意味を表現しているとされています。
また、横から見ると漢字の「入」の形に見えるように設計されています。これは風水的に良いとされる形状で、設計に風水の考え方が取り入れられていることがわかります。
特に注目すべきは、東側のビルの傾斜です。この傾斜は最大で52度にも達し、イタリアのピサの斜塔(傾斜角約5.5度)の約10倍もの傾きがあります。この大胆な設計が、他の建設会社が入札を辞退した理由の一つだったと考えられます。
さらに、サンズスカイパークには、世界一高い場所にあるプールとして有名なインフィニティプールが設置されています。このプールは地上150mの高さにあり、ホテル宿泊者専用の特別な施設となっています。
世界最大級のカジノ施設を含む総合リゾート
マリーナベイサンズは、単なるホテルではなく、巨大な統合型リゾート(IR)施設です。その中心となっているのが、世界最大級のカジノ施設です。
このカジノは、ラスベガスのカジノリゾート運営会社であるラスベガスサンズによって運営されています。単独のカジノとしては世界最大規模を誇り、多くの観光客を引き付ける大きな魅力となっています。
マリーナベイサンズのホテル部分は、3棟の57階建て、高さ200mの建物からなっています。総客室数は2561室で、シンガポール最大の総合リゾートホテルとなっています。
また、サンズスカイパークには、前述のインフィニティプールの他にも、レストランや展望台が設置されています。これらの施設が、マリーナベイサンズを単なるホテルやカジノではなく、総合的なエンターテインメント施設として機能させているのです。
このような多様な施設を備えたマリーナベイサンズは、シンガポールの観光産業に大きな貢献をしています。世界中から多くの観光客を集め、シンガポールの経済にも重要な役割を果たしているといえるでしょう。
マリーナベイサンズ建設会社の施工と安全性の真相
- 52度の傾斜を持つ独特な設計
- プールの安全性と落下事故の噂の真相
- 建築の安全性に関する専門家の見解
- 倒壊の可能性と現在の状況
- シンガポール政府の対応と今後の展望
- 観光名所としての人気と経済効果
- まとめ:マリーナベイサンズ建設会社の挑戦と成果
52度の傾斜を持つ独特な設計
マリーナベイサンズの最も特徴的な部分は、その大胆な傾斜設計です。特に、東側のビルは最大52度もの傾斜を持っています。この傾斜は、イタリアのピサの斜塔の約10倍にも及ぶ角度です。
この独特な設計は、イスラエル系カナダ人建築家のモシェ・サフディによるものです。サフディ氏は、建物全体を海から入ってくる船に見立て、シンガポールの関門としての意味を持たせました。
また、横から見ると漢字の「入」の形になるよう設計されています。これは風水的に良いとされる形状で、建築に文化的な要素も取り入れられていることがわかります。
しかし、この大胆な設計が、建設過程で多くの課題をもたらしたことは想像に難くありません。世界的な建設会社が入札を辞退した背景には、この傾斜設計の難しさがあったと考えられます。
プールの安全性と落下事故の噂の真相
マリーナベイサンズの屋上には、世界的に有名なインフィニティプールがあります。地上200メートルの高さにあるこのプールは、縁が切り立った崖のように見え、まるでプールの先が空に続いているかのような錯覚を起こさせます。
このユニークな設計から、「プールから落下する事故が多発している」という噂が広まることがありました。しかし、実際にそのような事故が起きたという報告は見つかりませんでした。
プールの安全性については、十分な対策が取られています。縁には1.2メートル以上の透明な壁が設置されており、落下を防ぐ構造になっています。また、万が一プールから水があふれても、すぐ下の空中庭園で受け止める設計になっています。
さらに、安全管理のため常に監視スタッフが配置されています。危険な行為をする人がいれば、即座に注意を受けることになるでしょう。これらの対策により、プールは安全に楽しむことができるようになっています。
建築の安全性に関する専門家の見解
マリーナベイサンズの大胆な設計は、多くの専門家の注目を集めました。52度もの傾斜を持つ建物の安全性について、さまざまな議論が交わされてきました。
建物を支える基礎部分には、500本以上の強固な杭が打ち込まれています。これにより、地盤沈下などによる影響は最小限に抑えられていると考えられています。また、強風に対する安全性も、多数の風洞実験を重ねることで確認されています。
シンガポールは台風の通り道から外れているため、超高層ビルにとって脅威となるような強風が吹く可能性は低いとされています。さらに、万が一の地震に備えて、免震・制震構造も採用されているようです。
これらの対策により、専門家の間では、マリーナベイサンズが倒壊する可能性は極めて低いと見られています。しかし、建設を担当した双竜建設の経営悪化や、工期の大幅短縮などを理由に、一部で不安の声も上がっています。
倒壊の可能性と現在の状況
マリーナベイサンズの倒壊の可能性については、さまざまな議論がありますが、現在のところ、建物の安全性に直接関わる問題は報告されていません。
建設から10年以上が経過した現在も、マリーナベイサンズは変わらずシンガポールのランドマークとして機能し続けています。日々多くの観光客が訪れ、ホテルやカジノ、ショッピングモールなどの施設は通常通り営業しています。
しかし、建物の経年劣化や維持管理の重要性は増していくと考えられます。特に、52度もの傾斜を持つ建物の長期的な安定性については、継続的な監視と適切なメンテナンスが不可欠でしょう。
また、建設を担当した双竜建設が倒産していることから、今後メンテナンスや補修が必要になった場合、誰がその責任を負うのかという点も注目されています。これらの課題に対し、運営会社やシンガポール政府がどのように対応していくかが、今後の焦点となるでしょう。
シンガポール政府の対応と今後の展望
シンガポール政府は、マリーナベイサンズを重要な観光資源として位置づけています。統合型リゾート(IR)の中核施設として、その存在は国の観光戦略に欠かせないものとなっています。
政府は、マリーナベイサンズの安全性と継続的な運営を確保するため、さまざまな取り組みを行っています。例えば、定期的な安全検査や、建物の状態モニタリングなどが実施されていると考えられます。
また、2019年には、シンガポール政府とラスベガス・サンズ社の間で、総額45億シンガポールドル(約3,600億円)の大規模拡張プロジェクトで合意しました。このプロジェクトでは、2025年の完成を目指し、新たなホテルタワーやエンターテインメントエリアの建設が計画されています。
この拡張計画は、マリーナベイサンズの価値をさらに高め、シンガポールの観光産業を強化する狙いがあると思われます。同時に、既存の施設の維持管理や安全性の確保にも、より一層の注意が払われることが期待されます。
観光名所としての人気と経済効果
マリーナベイサンズは、開業以来、シンガポールを代表する観光名所として不動の人気を誇っています。その独特な外観は、世界中の旅行者の注目を集め、多くの人々がこの建物を一目見ようとシンガポールを訪れています。
特に、屋上のインフィニティプールは、インスタグラムなどのSNSで頻繁に取り上げられ、「インスタ映えスポット」として若い世代を中心に人気を集めています。また、高級ホテルとしての評価も高く、世界中のセレブリティや富裕層が宿泊先として選んでいます。
経済効果の面でも、マリーナベイサンズの貢献は大きいと言えるでしょう。カジノやショッピングモール、レストランなどの施設は、多くの観光客を惹きつけ、シンガポールの経済に大きな利益をもたらしています。
また、マリーナベイサンズの存在は、シンガポールの国際的な知名度向上にも貢献しています。建物の独特な外観は、世界中のメディアで取り上げられ、シンガポールのイメージアップに一役買っていると言えるでしょう。
まとめ:マリーナベイサンズ建設会社の挑戦と成果
最後に記事のポイントをまとめます。
- マリーナベイサンズは、韓国の双竜建設が建設を担当した
- 日本の清水建設やフランスのVINCIなど、大手建設会社は安全性の懸念から入札を辞退した
- 建物の最大傾斜角は52度で、ピサの斜塔の約10倍の傾きがある
- 設計はイスラエル系カナダ人建築家のモシェ・サフディによるもの
- 建設工期は当初予定の4年から2年3ヶ月に短縮された
- サンズスカイパークの建設は日本のJFEエンジニアリングとシンガポールのヨンナム社が担当した
- 世界一高い場所にあるインフィニティプールは、安全対策が十分に施されている
- 専門家の間では、建物の倒壊リスクは低いと見られている
- シンガポール政府は2025年を目指して大規模な拡張計画を進めている
- マリーナベイサンズは、シンガポールの観光産業と経済に大きく貢献している
- 建物の維持管理と長期的な安全性確保が今後の課題となる
- マリーナベイサンズは、世界的に有名な観光スポットとしての地位を確立している